徳島県加茂小学校では4年生61名を中心に「キーボー島アドベンチャー」に取り組んでいます。指導にあたられた土井先生は,「スキルの向上に個人差こそありますが,このキーボー島で培った文字入力の力は子どもたちにとって大きな自信と意欲になっている」とおっしゃいます。今回は土井先生に,子どもたちが自ら鍛え上げたスキルが学習や学校生活の場面で有効に働いたと感じた実例を紹介していただきます。
学習の様子が変わった
4年生の理科では,身近な植物や動物を探したり育てたりしながら,季節による植物の成長や動物の活動を調べる学習があります。春夏秋冬,各単元のまとめの学習では,記録を整理し新聞や図鑑形式で発表し合う活動が多く行われていると思います。指導要領に示されたこともあり,コンピュータを使ってまとめる活動も増えてきているように思います。しかしコンピュータを使ったまとめの学習には思っていた以上に時間がかかり過ぎるという悩みを持つ方も多いのではないでしょうか。
本学級もごたぶんにもれず,キーボー島実施前にはコンピュータを使ったまとめの時間にかなりの時間を割かなければならない状態が続いていました。次の表は第4学年の理科,単元「夏のしぜん(キーボー島参加前)」と「冬のしぜん(キーボー島参加後)」の「生き物図鑑作り」にかかった時間とその人数をまとめたのです。
かかった時間 |
夏の「生き物図鑑を作ろう」 |
冬の「生き物図鑑を作ろう」 |
2時間でできた |
4人 |
23人 |
3時間でできた |
7人 |
6人 |
4時間以上かかった |
19人 |
1人 |
▲「生き物図鑑作り」の学習は,3時間で構成しました。1時間目に観察したり記録したりしてきた植物や動物の写真やスケッチを選び,分かったことや伝えたいことの中心点を箇条書きにして全体の構成を考えました。2,3時間目は,それらをもとに1枚のワークシートにまとめる時間にしました。 |
「夏のしぜん」では,想定していた時間内にまとめることができたこどもは約3割強でした。大半の子どもたちが文字入力に悪戦苦闘しました。「これなら手で書いた方が速いのに・・・。」といった素直なつぶやきも聞こえてきました。自然を体いっぱいに感じ,自ら観察したり調べたりして楽しく活動していたはずの理科の学習が疲労に変わっていく様子が手に取るように分かりました。それが,キーボー島で学習した後の「冬のしぜん」ではほとんどの子どもたちが時間内に仕上げることができました。
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▲冬の「生き物図鑑を作ろう」の例 |
また,文字入力が苦にならなくなってから仕上がる作品数も増えてきています。「夏のしぜん」では,学級全体で,身近な自然の観察記録が18種類29作品仕上がりましたが,「冬のしぜん」では「もう1作品作っていいですか。」という声が重なって27種類38作品に増えました。これは,文字入力という壁を乗り越えた結果だと考えられます。加えて,文字入力が堅苦しいものではなく,ごく自然な表現方法になりつつあることの一つの現れだとも感じています。
キーボー島を体験して文字入力のスキルが高まってきたことで,学習が変わってきました。教師の側から見れば,本来教えたいことや考えさせたいことに時間をとりやすくなること,学習の計画の見通しを立てやすくなることが利点でした。子どもの活動から見ると,キーボー島で得た自信や意欲が他教科のコンピュータを使った学習にそのまま受け継がれるといった情意面での高まりが見られることとともに,文字入力という新しい表現方法が子どもたちにとってより身近なものになることが,今振り返ってみて大きな利点だと思います。
「先生,パソコンで新聞を作っていいですか!」
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学級新聞を作りたい! |
本学級の子どもたちは休み時間にも交代し合ってキーボー島に挑戦しています。ほぼ毎日満員御礼が続いていました。そんな中,ある日の休み時間に一人の子が,「先生,パソコンで新聞を作ってもいいですか。」と申し出ました。どんな新聞を作りたいのかと問うと,その構想を熱く語ってくれました。嫌がる人が出るような内容にしないこととできた新聞は公表することを条件に快諾しました。取材のために,帰りの会でアンケートをとったり,休み時間にボールを追いかける友だちを追いかけて撮影したりと学級新聞記者は東奔西走していました。「人気スポーツランキング新聞」,「おすすめのお出かけ先新聞」「カブトムシ新聞」など,枚挙にいとまがない・・とまではいきませんが,学校生活の中で調べてみたいと思ったことやみんなに伝えたいと思ったことをまとめた新聞が発行されています。最初の動機は,手書きの新聞にはない仕上がりの見栄えの良さに強く惹かれたことだったかもしれません。その善し悪しはともかく,こうしたイメージが湧くのは,文字入力のスキルが高まったからこそだと思います。思いどおりに文字が入力できること,このスキルは新しい発想を生む地盤になると実感しています。
「記録係」の仕事ぶりにびっくり
本校の5年生は,総合的な学習の時間などでテレビ会議をする際の議事録を会議中のその場でコンピュータを使って作成しています。これは,高いレベルでの文字入力の速さや正確さだけでなく,聞く力や要約する力などが求められる難易度の高い活動だと思います。そうした先輩の活動に憧れ,倣って,本学級でも「記録係」が創設されました。創設されたとたんに,希望者多数で学級の係活動の中でも1,2を争う人気の係になりました。
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話し合いの記録をとる |
記録係の初仕事は社会福祉施設への見学についての話し合いを記録するものでした。初めは話を聞きながら文字を入力することに戸惑いがあったようですが,慣れてくるにつれてどんどん手際が良くなってきました。左の写真はそのときの記録の様子です。1級や初段になるとこうした記録が苦もなくできるようになります。3か月前には想像もしなかった子どもたちの様子にただただ驚くばかりでした。
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▲この日の記録係の記録 |
鍛えた力を生かす場を設けてみましょう
今回は,新聞作りや学級会の記録といった一見特殊な場面での例を挙げましたが,コンピュータを使ったまとめ学習はもちろん,掲示板を使っての交流学習や学級日誌の作成など文字入力を要する様々な場面でその成果を生かすことができると思います。頃合いを見計らって,キーボー島で鍛えた力を生かす場を設けてみてください。きっと驚くほどの成長を感じることができると思います。同時に子どもたち自身も自分の成長を感じることができると思います。「キーボー島」の学習を通して,私や学級の子どもたちが得たものは,単に文字入力のスキル向上に留まらず,自らの成長を感じ,喜び,次への意欲をもつという学びの体験だったのかもしれないと感じています。
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