「みんなのけいじ版」には,毎日400件前後の書き込みがあります。活発に使われているだけに「荒れ」は許されません。「キーボー島アドベンチャー」のプロジェクトメンバーである石原先生には,この掲示板の番人として,問題ある掲示については指導の書き込みをしていただいています。この掲示板を情報モラルの学習の場として育て活用するために,参加していただいているすべての先生にお願いしたいことを,石原先生にまとめていただきました。
「みんなの掲示板」のねらいと意義
「キーボー島アドベンチャー」は子どもたちが文字入力のスキルを磨く学習サイトです。このサイトで練習をして文字入力が上達すれば,実際のコミュニケーションの場で使ってみたくなるものです。「みんなのけいじ板」はそのような子どもたちの要求に応え,子どもたちが友だち同士の生きた交流を通して文字入力に親しんだり,上達したりすることをねらいにしています。そのため,「みんなのけいじ板」では各級を攻略するための情報交換や,分からないことを教え合ったり,はげまし合ったりすることが主な目的となっています。
ところが,電子掲示板は放置しておくと次第に「荒れ」が起こります。文字入力のスキルが身に付くと,子どもたちはつい落書きがしたくなります。新しいペンやクレヨンを手にした時の気持ちを思い出してください。情報モラルを学んでいない子どもたちは,電子掲示板とトイレの落書きの違いを知りません。自由帳と同じような感覚で,掲示板に落書きやイタズラ書きをしてしまいます。だからと言って,学んでいない子を責めるわけにはいきません。そこが学習の場なのです。それらの行為をその場その場で指導していくこ
とが大切です。このような正しい指導が無い場合,不適切な書き込みが掲示板にそのまま放置されてしまうと,他の子どもたちもその行為が容認されたものと勘違いして,より過激で悪質な書き込みへと加速度的にスパイラルしていきます。掲示板の「荒れ」はこのようにして起こるのです。
巷間には「荒れ」を売り物にしている電子掲示板があります。悪口雑言やののしり合い,差別や偏見など読むに耐えない内容に溢れてい
ます。教師として子どもたちに見せたくないものの一つです。しかし,子どもたちのなかには,この種の掲示板を見ている子も見受けられ,「見てはいけません」と禁止することはできません。
私たちがこのような悪質な掲示板に対抗するためには,「あるべき姿」を子どもたちに提示することが必要です。このような放置型の掲示板の対極にある「見守られている」掲示板が「みんなのけいじ板」です。子どもたちがネットワークのコミュニケーションでは悪口や差別発言をしてもかまわないと勘違いしないように,「みんなのけいじ板」を正しいコミュニケーションの在り方を学ばせる一つの場にしたいと考えています。掲示板に書き込みをする子どもたちのコミュニティーを一つの大きな教室と考え,大人がこのコミュニティーにコーチとして関わることで教育的な機能を持ったコミュニティー
に育っていくことを願っています。これは大変手間のかかる仕事ですが,子どもたちが実際のコミュニケーションを学ぶ場として,大変意義があることだと思います。
実際の子どもたちの書き込みから
それでは,9月から始まった「みんなのけいじ板」の中で,不適切な書き込みを類型化して見ていくことにしましょう。
【意味不明】低学年やスキルの低い子どもたちによく見られる書き込みです。掲示板とはどのようなものかよく分からずについ試してみたくなって書き込んだケースもあるようです。
(事例1)あああああああああああああああ
(事例2)iu@p.yhulutypkyglyuvgl,fvr,dcse.ugu;lu,ft;y,jly
(事例3)llllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllll
【汚い言葉】汚い言葉を投げつけてしまう例です。掲示板が衆目の目に晒されることを理解していない児童がおもしろ半分で書き込
むケースもあります。
(事例1)うんこをもらす。
(事例2)うんこ〜〜〜 ××× ●●● げりPー などの放送禁止用語等の羅列
【悪口】日ごろ使ったり思ったりしていることを不用意に書き込んでしまう例です。掲示板に書く前に思いとどまる習慣を身に付けさせることが必要です。
(事例1)へたくーーーーーーーーーーーそ
(事例2)まぬけまぬけ
【ののしり】話し合いの中で書き込まれるケースが多いです。何か問題があった時に注意する側の児童が思わず使ってしまうケースもあるようで,注意する時の言葉遣いも考えさせる指導が必要です。
(事例1)ぼーけ・かーす・まぬけ・ばーす・あーーーーーーーーーーほ
(事例2)ばっかじゃないの
(事例3)こんなのも出来ないなんてだめじゃんもっと練習しろよー
(事例4)本当は,まだ14級だよ!
ひっかかったね!バッカだ あははははは
(事例5)教えないと・・・のろってやる
(事例6)そんなよわいあいてもかてんのだっせー。はやく勝てよぼけ。
【自慢・見下し】本人は特に問題があるとは思わないで書き込んでいる場合もあります。自分の書き込みが,読んだ人にどのような印象を与えてしまうのか,考えさせることが必要です。
(事例1)簡単だよねーーーーーーーーーーーーーーー勝てなかったらおかしーね
(事例2)まあ僕は3級君の相手ではない
(事例3)30級なんてらくらく。簡単だし。できないほうがおかしいし。
【私的利用】愚痴を言ったり,同じ学校の友だちだけで使ったりして掲示板を私物化する例です。チャットのように使う例もこの中に含まれます。掲示板の目的から著しくはずれるような書き込みの場合は指導が必要です。
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(事例1) |
ちょっと!愚痴聞いて! あのさ〜!クラスで『○○○』(あだ名)ってやつが,叩いた〜!!何にもしてないのに
〜!!!! このやろ〜! |
*キーボー島アドベンチャー事務局注* |
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最近,掲示板をチャットのように利用し,終了後,自身で削除するケースが出てきています。そのため,先生が「[キーボー島]掲示板情報」
メールを受け取り,チェックしたときにすでに削除されているといったことが起
こります。
また,児童は書き込み内容が先生に通知されていることを知らないで,「削除すればよい」と考えてチャットしている可能性があります。すべての書き込みは先生に通知されていることを,児童のみなさんにご指導いただきたいと思います 。
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【中傷】このような書き込みは,見つけ次第削除が必要です。個人が特定され,人権に関わる問題が発生するからです。被害にあった子どもに配慮しながら,書き込まれた内容の深刻さを本人に伝え二度とこのような書き込みをしないように話し合うべきです。場合によっては,クラス全体で話し合うことも必要になります。
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(事例1) |
○○○子さん(実名)好きです。キスもしました。○○○子さん(実名)に告白し,キスをしろ! |
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(事例2) |
○○○(実名)のうんこってさー,くさいよね。 |
【個人情報】このような書き込みの場合も見つけ次第削除が必要です。個人情報の保護は情報モラルの大切な課題です。自分の個人情報
だけでなく他人の個人情報も大切にしなければなりません。個人情報が他人に知れるとどのような問題が起こるのかを考えさせ,個人情報の大切さを認識させるのが必要です。
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(事例1) |
ID〇〇〇〇
パスワード◇◇◇◇ |
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(事例2) |
(1)〇〇〇(本名) (2)12歳(年齢)
(3)150cm(身長)
(4)女の子(性別失礼ですが・・・)
(5)8級(級)
(6)静岡県(住んでいる県名)
(7)10月27日さそり座(生年月日・星座) |
不適切な書き込みは,どのように指導すればよいでしょうか。
前にも述べましたが,「みんなのけいじ板」は大人が見守り,積極的に関わることでより良いコミュニティー作りをめざしています。
「みんなのけいじ板」にはそのための仕掛けがいくつかあります。
(1)児童が掲示板に書き込みをした場合,書き込んだ内容を登録した先生にメールで自動的に知らせる。
(2)「キーボー島アドベンチャー」のスタッフが児童の書き込みをすべてチェッ
クしていて,不適切な内容と思われる場合はメールで「点検」を担任の先生にお願いする。
*キーボー島アドベンチャー事務局注* |
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(1)について:『[キーボー島]掲示板情報』という件名でお送りしています。これが届いていない場合には,先生用管理画面の「管理者情報の変更」の文字をクリックし,表示される画面で,「掲示板書き込み連絡メール」にチェックを入れてください。
(2)について:「キーボー島アドベンチャー事務局」では,書き込みをチェックし,少しでも問題となりそうな書き込みについては担当の先生に点検をお願いするメールをお送りしています。その際,中傷や差別,個人情報など緊急性のあるものは,児童が見ることができないように設定いたしますが,先生のIDでログインした時には表示されますので,文脈をご確認の上,ご指導をお願いします。 |
したがっ
て,毎日メールをチェックすることで,少なくともご自分の担当されている子どもたちがどのような書き込みをしているかが自動的に知らされるようになっています。また,担任の先生には子どもたちの書き込みを削除できる権限も与えられています。もし,特定の個人への中傷や個人情報の漏洩など緊急に対応しなければならない場合は,直ちに担任の権限を行使して削除してください。
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掲示板の書き込みについて話し合う |
さて,気になる書き込みがあったり,スタッフから点検の依頼が届いた場合には,「みんなのけいじ板」の使い方について,ぜひ子どもたちと話し合っていただきたいと思っています。学習のチャンスだからです。場合によっては,学級全体で話し合うのも良いかもしれません。
子どもたちと書き込みについて話し合う場合,大切なのは不適切な書き込みをした子どもたちの理由を聞いてあげることだと思います。
どんな行為にも,子どもたちの「りくつ」があります。たとえ,「なんとなく」と答えてもそれはその子にとって立派な理由です。子どもたちの理由を聞き取ることで,子どもたちを見守る共感的な担任の思いをその子に伝えながら,「『なんとなく』でそんなことをしても,これを読んだ人はどう思うかな」と言った問いかけで自分の行為の意味を冷静に考えさせてあげることが大切です。必要なのは
教師の注意ではなく,子どもたちが考える材料を我々教師が用意し,子どもたちに考える機会を与えることです。自分の書き込みに対する処理も子どもたちに判断させてあげたいです。「じゃあこの書き込みをどうしようか」という問いかけで,自分の書き込みに対して自ら責任を取ることの大切さも指導していきましょう。
「みんなのけいじ板」のコミュニティーは一つの教室だと言いましたが,教室だから子どもたちは間違ったり失敗したりしても良いのです。大切なのは,自分の誤りを誤りと認め,その後の行動に生かすことです。大変手間のかかる仕事ですが,このような学習を通して「他の人がこんなことをしたら今度は自分が注意する番だ」と教師の側に立つ子どもたちが一人でも多く育ってくれればと願ってい
ます。
「罪を憎んで人を憎まず」とはよく言ったものですが,掲示板に参加している子どもたちは様々な書き込みにもまれながらも,
先生方のあたたかい支援や掲示板の中での友だちからの声援に励まされて,確実にタフに育ってきています。
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